スマートフォンの形をした石の彫刻『Distance #M31』には、アマチュア天文写真家アイザック・ロバーツ(*1)が撮影に成功した人類初のアンドロメダ銀河の写真シリーズ(1887〜1895年撮影)が、カメラ撮影モードを模した画面に映し出されている。
使用された石は、リトグラフの印刷に使われた石灰石の石切り場として知られるドイツのゾルンホーフェンにて、新津自身によって収集されたもの。およそ1億4500万年前(ジュラ期)の石層に残された、らせんを描くアンモナイトなどの化石を含む石は、地球の生き物の生活を伝える、いわば人類以前のメディアといえる。
大量の多色刷り印刷が可能になったリトグラフィ印刷術(ギリシャ語で、リトは石の意味)の発明は、複製芸術の新しい芸術分野を開花させただけでなく、広告や政治に使われ、都市空間において人々の生活を刺激し、イメージの力によって、近代化を押し進めた。 さらに今日のオフセット印刷の基礎となり、また『photolithography』と呼ばれる写真製版術とリトグラフィを組み合わせた、コンピュータやスマートフォンの、半導体マイクロチップのプリント技術へと繋がっている。
技術によって拡張し続ける我々の目。遠く離れた銀河や惑星の高画質画像が、NASAなどの技術によってスマートフォンへと瞬時に共有される今日、地球から約250万光年離れたアンドロメダ銀河までの距離についての、その捉え方への対話と考察がここにある。もしかしたらいつか、ドローンのような機械をスマートフォンでコントロールして自由に宇宙を彷徨い、アンドロメダ銀河の写真を撮影できるかもしれない。この作品は、メディアの発明とその起源から、未来のテクノロジーのポジションを問いかけている。
個展「A A' A'' Andromède」にて、絵画作品と共に展示
Galerie Yoshii、パリ、2018年
(*) Isaac Roberts (1829-1904)
天体写真の分野に多大な貢献をしたイギリスのアマチュア天文学者。
彼の撮影したアンドロメダの写真により、星雲がらせん状の構造をしていることが初めて解明された。
多謝 :
三橋紀子(石灰石調査)