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“石版画によって、複製技術は本質的に新しい段階に達した。”
- ヴァルター・ベンヤミン 「複製技術時代における芸術作品」1935年.
Ⅰ
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1. 新津亜土華、 Initial A
石版画、アルシュ紙250g、57cm x 76cm、限定エディション10 + 13 AP、アーティストによる鉛筆によるサインと番号入り、2012年
大木記念財団の支援による、パリの版画工房IDEMでリトグラフの石版に描画、印刷。パブリックコレクション: BnF パリ・フランス国立図書館
2. 新津亜土華、 Initial A'
デジタル画像データ、オープンエディション、サイズ可変、色変更可能、媒体変更可能、2012年
「Initial A」は、パリの版画工房アトリエIDEMにおけるリサーチプロジェクトの一環として新津が制作した最初の石版画。
石版画制作の最初の取り組みとして、新津はインクウォッシュの技法を用いて、石灰石の石版に自動的なパターンを作成、それぞれの石のユニークな特徴との対話を行った。
アトリエIDEMでは、100年以上にわたり同じ石版を使用してきた。この工房で、新津は石版画の発明が複製イメージとマスメディアの出発点であることを学んだ。
一方、「Initial A'(ダッシュ)」は、Initial Aの石版画をスキャンして制作した作品で、版画、ビデオアニメーション、インスタレーションなど様々な形で存在する。
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新津亜土華、 Initial A'
プレミアム写真用紙 (250g) にプリント、アクリル樹脂パネル (2mm) に台紙接着、Alu-Dibond (3mm) で裏面補強。29.7 x 42 cm (11.7 x 16.5インチ)。額装サイズ: 34.3 x 46.6 cm (13.5 x 18.3 インチ)、2022 年
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新津亜土華、 Le Piaffer
インスタレーション風景、アニメーション「Initial A'」、ドローイングへのビデオプロジェクション、2012年
Ⅱ
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新津亜土華、 The Phoenix(火の鳥)
石版画シリーズ作品、BFK Rives紙、ユニークエディション、2012年
大木記念財団の支援による、パリの版画工房IDEMでリトグラフの石版に描画、印刷。
石版画とは、石灰石を用いた版画技法である。版画が完成し印刷が終わると、石版は研磨されて版は消去され、また他のアーティストによって何度も利用される。
この版画プロセスの特徴と、石灰石の物質性から、空想上の生き物「火の鳥」のコンセプトが新津のインスピレーションとなった。
火の鳥は100年に一度自らの体を焼き、蘇り、永遠の命を生きる。フェニックスは、古今東西、エジプト、ペルシャ、ギリシャ、中国、ロシアなどで伝説やインスピレーションの源として描かれてきたほか、手塚治虫による漫画「火の鳥」やストラヴィンスキーのバレエなどの芸術作品にも描かれた。火の鳥は、媒体を超えて変容し、何度も再現されるイメージの形で自らを表現する。つまり、「火の鳥」は様々なメディア上に出現する存在であると考えることができる。
新津は「不死鳥」のイラストレーションの代わりに、石灰岩に含まれる、海洋生物や、炭酸カルシウム(CaCO3)のさまざまな結晶形からインスピレーションを得て、より有機的で抽象的なイメージを描き、生命の循環というコンセプトを表現した。
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新津亜土華、 The Phoenix
インスタレーション風景、リトグラフへのビデオプロジェクション、2012年
Ⅲ
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新津亜土華、 地球の本のページ
ゾルンホーフェン石灰岩のシリーズ写真より。2012年、ドイツ・ゾルンホーフェンへの調査旅行で撮影。 ©Adoka Niitsu
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新津亜土華、 Chez Idem(Idemにて)
ドイツのゾルンホーフェンでアーティストが収集した石灰石を使用した石版画プロセスの実験。2013年、パリの版画工房IDEMで撮影。
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新津亜土華、 The Stone said:、2013年
パリの地下鉄サン・ジェルマン・デ・プレ駅での展覧会「GREEN SPACE - 地下の庭」での展示風景。※展覧会キュレーター:Barbara Nemitz(ドイツ、ワイマールのバウハウス大学教授、アーティスト)、参加アーティスト:Barbara Nemitz Michel Blazy, Julien Bouillon, Ritsuko Taho ほか.
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ドイツ、ゾルンホーフェン産のリトグラフ石灰岩、石のサイズ 10.5 x 11 cm、和紙にリトグラフ、IDEM Paris で印刷。ボックスサイズ 30 x 30 cm: 鏡、アクリル板、2013年
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2012年8月29日
どこからきたのだろう?石版画制作の経験を得たあと、どうしてもリトグラフのマテリアル:石灰石について考えずにはいられなくなった。高品質の石版は、ドイツのゾルンホーフェンの採石地でとられるという。どうしてもその産地をみなければと思っていた。
2012年8月30日
前期ジュラ紀の地層はとても美しかった。石にのみをいれ、ハンマーで叩くと、石のレイヤーが地球の歴史の、本のページのように剥がれた。石のかけらはそれぞれ、さまざまな化石を含んでいて、1億4500万年前の生命の話を話してくれた。石灰石は人類に使用される以前から、すでにイメージを保存し、転送するメディアだったのだとわかった。車の免許を持つ友人のおかけで、たくさんの石をスーツケースに入れて持ち帰ることができた。
2013年2月18日
旅からの石灰石で、リトグラフを作る実験をはじめた。きめ細かく研磨し、表面に描く・・・それはまるで、それぞれの石との対話、そしてコラボレーションのようだった。