WORKS / Watching #candle

"Watching #candle" Limestone, 7 x 13.3 x 0.9 cm, 2019, Adoka Niitsu
スマートフォンの形を模した石灰石を用いて制作された彫刻『Watching #candle』には、キャンドルの炎の写真が表示されている。

キャンドルは暗闇を照らすだけでなく、誕生日や瞑想、祈りにも使われ、炎のゆらめきは私たちに、生命の象徴と永遠への希望を投影する。溶けゆくキャンドルは、時に涙がこぼれ落ちるようにも見える。キャンドルの炎を見つめる時間は、内面の癒しの時間とも言える。

同時にこの作品は、メディアの歴史とのつながりを示唆する。
「ビデオアートの父」ナム・ジュン・パイク(1932-2006)は、1960年代から2000年代にかけて「TVキャンドル」と呼ばれる、ヴィンテージテレビの筐体の中に一本のロウソクを灯した作品を数多く制作発表した。

「光は人類の文明の始まりを表す。パイクはかつて言った、光は情報の一部である、と。この作品で彼は、テレビを新しいタイプの文明の始まりと考えた。」*1(Nam June Paik "Candle TV"に関するテキストより引用)

1984年の元旦には、パリとニューヨークを結ぶ初めての国際的な衛星中継を使ったアートイベント『Good Morning, Mr. Orwell』を主催。このイベントのタイトルは、イギリスの小説家ジョージ・オーウェルの有名なディストピア・サイエンス小説「1984年」への呼応であり、未来のメディアの影響の予言でもあった。

オーウェルの『1984年』は、広島と長崎での原爆投下からわずか4年後の1949年に出版された。この小説に出てくる「テレスクリーン」は、テレビ、カメラ、マイクなどのデバイスがすべて統合されたものであり、まさに今日のスマートフォンのようなものと言える。

新津は、パイクの先鋭的でポジティブな未来な視点へオマージュを捧げ、彼のコンセプトを拡張する。 パイクのテレビの代わりに、新津は石灰石で出来たスマートフォンに、ライブストリーミングのスクリーンを模して、キャンドルの炎の映像に1900人がアクセスし、84人が「いいね!」ボタンを押しているように表示。

この石は、石版印刷に使われる石灰岩の採石場として知られるドイツのソルンホーフェン地方で採石され、石には化石が含まれており、これはいわば人類以前の地球上の生活を見せるメディアともいえる。

石版印刷の発明により、大規模なカラー印刷が可能になった。この技術は、現在のオフセット印刷の基礎となっているほか、パソコンやスマートフォンに使われる半導体マイクロチップの分野にも採用されている。

今日、私たちはスマートフォンで撮影し、瞬間的にイメージを共有する。テクノロジーの変化するスピードは、ますます速くなっている。しかし、この石灰石で出来たスマートフォーンを仔細にみつめれば、地球上の、生と死の、長いスケールの視野を得ることができる。

1億4500万年前から今日まで、このスマートフォンはイメージの複製の歴史と、ビジュアルコミュニケーションを提示し、同時に時間の概念、人と自然の関係性、メディアやテクノロジーの歴史、未来の私たちのビジョンについて、自然の素材を通じて、瞑想的な方法で考えるようにみるものを誘(いざな)う。そして同時に、今日の時代の証言でもある。

*1 : Nam June Paik Art Center website
https://njpac-en.ggcf.kr/archives/artwork/candle-tv


Photo of work in progress, 2019
Note :
* リトグラフ
ドイツの劇作家・俳優のアロイス・ゼネフェルダー(1771-1834)が、安価な印刷方法を模索しているとき、偶然、石の上で水と油が反発し合う性質に気づき、1796年に発明した平板印刷。ギリシャ語で、リトは石の意味。 その後、多色刷りの大量印刷が可能となり、パリにおいてロートレックを代表とするアーティストたちを魅了し、応用芸術やマルチプルという新しい芸術分野を切り開いただけでなく、広告や政治意図など、ポスターという都市の公共空間において、人々の生活を刺激し、近代化をイメージの力によって押し進めた。 また現在のオフセット印刷の基礎となる技術であり、写真製版術と組みあわされた“フォトリソグラフィ”と呼ばれるコンピュータやスマートフォンの半導体マイクロチップのプリント技術にも応用されている。

* 石灰石
石灰石は、珊瑚や有孔虫のような海生微生物の石灰殻の残骸から出来ている。 作品に使われた石は、リトグラフ印刷に使われることで知られるドイツのゾルンホーフェン地方の採石場で新津自身によって収集された。石の断片にはさまざまな化石が含まれており、人類以前の地球の歴史を物語る石灰石は、メディアの起源と考えることができる。

英文テキストチェック:June Allen
石灰石収集協力:三橋紀子








Installation view at Galleria Daniele Agostini, Lugano
*この作品は、スイス・ルガーノでの火と文明をテーマにしたグループショー"CENERE"にて展示されました。

"CENERE"
Tonatiuh Ambrosetti, Davide Cantoni, Giovanni Chiamenti, Andrea Gabutti, Gao Li, Adoka Niitsu, Nastasia Meyrat, Stefan Milosavljevic, Marta Pierobon, Laura Santamaria, Marco Scorti, Vera Trachsel, Abdelaziz Zerrou

Opening : Thursday 9 MAY 2019, 18:00 - 20:00
Exhibition : 10 MAY - 6 JULY 2019

Galleria Daniele Agostini
Via Cattedrale 11,
6900 Lugano, Switzerland

Opening hours :
Wednesday, Friday, Saturday : 13:00 - 18:00
Thursday: 13:00 - 19:00
or by appointment

https://www.danieleagostini.ch/